大腸の病気

細菌性腸炎

細菌性腸炎

下記の細菌などによる腸炎

症状

下痢、腹痛(しぶり腹)、発熱等を呈する。
細菌による腸炎の感染から発病まで
ブドウ球菌: 1~6時間
腸炎ビブリオ: 12~17時間
サルモネラ菌: 8~24時間
連鎖球菌: 5~10時間

検査

確定診断は便の培養検査

治療

抗生剤投与と水分、電解質(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、クロールなど)の輸液療法c

虚血性腸炎

病態

大腸を栄養している血管の閉塞、狭窄により、その栄養されている領域の大腸が虚血状態となり呈する腸炎。高血圧、動脈硬化、不整脈、糖尿病に併発され易い。これは、腸間膜動脈(大腸の栄養血管)の狭窄を呈していることが多いからです。

症状

突然の腹痛、下痢、下血にて発症する。特に左結腸に発症しやすく、左側腹部痛を伴う下血はまず、この疾患を疑う。病変の多くは可逆性で、通常は10日以内に寛解します。

検査

大腸内視鏡検査により、炎症を確認する。

治療

腸内の安静を図るために、禁食とし、輸液栄養を補給する。

偽膜性腸炎

病態

抗生剤投与により腸内の菌のバランスが崩れ、毒素を出す細菌が異常に繁殖して起こす腸炎です。高齢者、年少者に多くみられます。

症状

抗生剤を投与して2~7日して突然、粘っこい血液を含んだ下痢や水溶性下痢を伴う腹痛を呈します。

検査

大腸内視鏡検査により、黄色から白色の炎症性膜様物が点状に粘膜を覆うのが確認されます。時に、浮腫、びらん、潰瘍を呈します。

治療

原因抗生剤の中止をし、薬物治療と輸液管理を行ないます。

抗生剤を服用してから腹痛と下血を認めたら偽膜性腸炎を疑って大腸専門施設へ!

放射線性大腸炎

病態

骨盤内悪性腫瘍に対し放射線治療を行なった後に発生する大腸の難治性の炎症疾患。40~50radの放射線照射から急速に頻度が増加する。

症状

照射開始1~2週間後に生じる早期障害は一過性の粘膜壊死が原因で、下痢、しぶり腹を呈しますが、普通照射中止後1ヶ月くらいで消失します。
晩期障害は照射後6ヶ月~10年以上経過してから現れます。腸管の小血管の閉塞、粘膜萎縮、線維化に伴う虚血性変化で腸管の狭窄症状、出血、瘻孔形成、穿孔(腸管に穴が開く)が起きます。

検査

放射線の照射の既往、症状に加え、大腸内視鏡検査にて腸管内の炎症所見を確認し診断します。

治療

早期障害の下痢、しぶり腹には止痢剤、鎮痙剤などの対症療法を、晩期障害に対しては慢性の栄養障害のため、栄養管理が必要である。小腸病変を有する場合や臨床症状が強い場合は高カロリー輸液などによる全身療法が必要となります。

急性虫垂炎

病態

いわゆる俗にいう「もうちょう」である。盲腸部の先端から腸外に突き出している「虫垂(ちゅうすい)」というところの炎症を起こした病気です。炎症はこの虫垂部に便などが貯留し細菌感染を起こすことにより発症します。

「へるす出版 消化器外科7手術のための新局所解剖アトラスより引用」

症状

初期症状として、心窩部(みぞおち)の痛みや臍周囲の不快感が現れる。次第に痛みは虫垂のある右側腹部に限局してくる。
痛みは咳などの腹圧がかかる時に増強し、虫垂が破裂し、菌が腹腔内(おなかのなか)にばらまかれると、腹膜炎を併発し、歩行でさえ困難になる。腸管の麻痺症状により、食欲不振や嘔気を伴い、発熱は38度程度認める。

検査

腹部所見による右側腹部の圧痛と、血液検査(白血球などの炎症反応の上昇)超音波検査やCT検査による虫垂の炎症所見を確認する。

治療

原則的には外科手術の適応であり、腰椎麻酔下(小児は全身麻酔)に虫垂切除術を行なう。ただし、所見の弱い場合は保存的に抗生剤で経過を観察した後に待機的に手術を行なう方針とする場合もある。

潰瘍性大腸炎

病態

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の腸炎を炎症性腸疾患といい、潰瘍性大腸炎もそのひとつです。
腸内に棲む細菌のバランスが崩れたことが、大腸炎の発症や症状の進行に関わっているのではないかという細菌説。人間の免疫機構(体を外敵から守ろうとする体内の防衛システム)が体の一部であるはずの大腸の粘膜を敵として認識して攻撃し、破壊しているという自己免疫異常説が言われています。また食生活やストレスが大きく関与している説などさまざまですが、結局はっきりした原因はわかっていません。

発症年齢は男性で20~24歳、女性で25~29歳をピークとします。

厚生労働省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班 平成4年度報告書より

症状

初期の症状は腹痛とともにゼリー状の粘液が排便時に多くなり下痢の傾向になります。放置しておくと粘液の量が増えるとともに血液が混じるようになったり(粘血便)、血便が出るようになります。さらにひどくなると一日に何十回も粘血便や体重減少、まれに便秘も認められます。一般に経過は緩やかで悪くなるとき(再燃)と、良くなるとき(緩解)を繰り返しますが、電撃的に急激な発熱と粘血便で発症するときもあります。

検査

血液検査における炎症反応、大腸内視鏡検査による腸内の観察が必要です。生検(粘膜の微小片を採取し顕微鏡で観察)して確定診断をします。

治療

多くの場合薬物療法や食事療法にて一時的もしくは永続的に症状は緩解しますが、症状が改善されても医師の指示があるまでは通院する必要があります。特に慢性持続型、発症から10年以上経過している例、全結腸型の例では定期的検査が必要です。
軽症の患者さんには5-ASA製剤の飲み薬による治療が基本的なものになります。重症の患者さんや全身症状を伴う中等症例ではステロイドの大量療法や免疫抑制剤を使用し入院による全身管理が必要です。多くの患者さんは薬物療法により緩解が得られますが、ステロイドは臨床症状や炎症反応等の様子を見ながら徐々に減量していきます。

< 薬物療法 >
● 5-ASA製剤

腸管の中で局所的に働き、炎症を抑えます。
従来から使用されてきたサラゾスルファピリジン(略号:SASP 商品名:サラゾピリン)と最近発売されたメサラジン(商品名:ペンタサ)があります。SASPは腸内に到達する前に大半が吸収されてしまいましたが、ペンタサは腸で徐々に有効成分を出すように製剤設計されており、効果が期待されています。

【副作用】
アレルギー症状、発疹、消化器症状、頭痛などがあります。このほか肝障害や溶血性貧血、白血球減少があります。
また男性の場合精子の減少や運動能の低下から男性不妊の原因に成ることもあります。妊娠に対する投与については通常の投与量では催奇形性は無いとされていますが、薬が母乳から移行することから出産後は十分に専門医に相談することが必要です。

● 副腎皮質ステロイド

強力な炎症抑制作用を有します。内服薬のほか坐薬、注腸(肛門から注入する薬)、静脈内注射を程度に応じて使います。

【副作用】
体重の増加、顔の浮腫み、にきび、不眠、糖尿病の悪化、骨がもろくなる、感染症にかかり易くなるなどがあります。

● 免疫抑制剤

免疫の異常な働きを抑えます。ステロイドで緩解をみない患者さんや副作用が強い患者さんに免疫抑制剤の少量投与を行なうことでステロイドの減量や中止ができるようになりました。

< 食事療法 >

一般的に症状が活動期の場合は腸管からの栄養の摂取が妨げられ、体力の消耗を起こすことがあります。高エネルギー食、良質のタンパク質、消化の良い食品を補給することが基本です。大腸を刺激する食物繊維や下痢になりやすい脂肪の多いものはとらないようにします。緩解期にはそれほど神経質になることは必要ありません。ただし、当然の如く暴飲暴食や、過度のアルコール、コーヒーや香辛料、炭酸飲料の摂取は避けるようにします。

< 新しい療法 >

白血球除去療法:潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜のびまん性(広範囲)の炎症を来たす疾患ですが、炎症をひき起こしている白血球は全身を循環している末梢血から補充されます。この白血球そのものを除去してしまえば大腸の炎症も治まるだろうという考えのもとに試みられるようになった方法です。この治療をはじめは週1回、緩解が導入できてからは月1回施行します。従来の治療法と大きく違う点は薬剤を使用するわけではないので副作用が出にくいということです。ただし治療効果には非常に大きな個人差があるようです。

< 手術療法 >

薬物療法、食事療法ではコントロールできなかった下記の症例は手術適応になります。基本的に全結腸切除が定型的です。

  • 大量出血がみられる場合
  • 中毒性巨大結腸症(大腸が腫れあがり、毒素が全身に回ってしまったもの)
  • 穿孔(大腸が炎症部より穴が開いてしまった状態)
  • 癌化またはその疑い
  • 薬物療法などの内科的治療に反応しない重症例
  • 副作用のためにステロイドなどの薬剤が使用できない例
< 行政による社会保障制度 >

潰瘍性大腸炎と診断されたら、国や自治体から特定疾患医療給付制度があり、医療費補助が受けられます。手続きは下記の通りです。

  1. 民票登録をしている区域の保健所で特定疾患専用の診断書と申請書をもらいます。
  2. 診断した担当医師に診断書を記入してもらいます。
  3. 申請書には本人または保護者が記入します。
  4. 書類審査が終了すると約1~2ヶ月で受給者証が交付されます。
  5. 医療費補助の開始時期は各都道府県で異なります。申請書を受理した日とするところと、受理した月の初めから免除を受けられるところとがあります。
  6. 受給者証の有効期限は1年間です。更新は満了2ヶ月前までに手続きが必要です。

昔から自分は胃腸が弱いと考えている方は一度検査(大腸検査)の施行をお勧めします!

クローン病

病態

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の腸炎を炎症性腸疾患といい、クローン病もそのひとつです。クローン病は1932年にニューヨークの内科医師クローン先生らによって限局性回腸炎として報告されたのが最初です。クローン病は、主として若い成人にみられ口腔に始まり肛門に至るまでの消化管のいかなる部位にも潰瘍ができ、それに伴い腹痛や下痢、血便が生じる病気です。先進国に多く、環境因子、食生活が大きく影響し、動物性タンパク質や脂肪を多く摂取し生活水準が高いほどかかりやすいといわれています。
 遺伝的な要因が関与するという説、結核菌類似の細菌や麻疹ウィルスによる感染で発症するという説、食事の中の成分が腸管粘膜に異常な反応をひきおこしているという説、腸管の微小な血管の血流障害による説があげられていますが、いずれもはっきりとした証明はありません。

発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳をピークとし、男女比は約2:1で男性に多いようです。

厚生労働省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班 平成4年度報告書より

症状

クローン病の臨床症状は患者さんによって非常に多彩で、侵された病変部位(小腸型,大腸型,小腸大腸型)によっても異なります。そのなかでも特徴的な症状は腹痛と下痢で約半数以上の患者さんで見られます。さらに発熱、下血、腹部腫瘤、吸収障害に伴う体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状も現れます。
瘻孔、狭窄、膿瘍などの腸管合併症や関節炎、虹彩炎、結節性紅班、肛門病変などの腸管外の合併症も多く、これらの有無により多彩な症状を呈します。

検査

血液検査における炎症反応、大腸内視鏡検査による腸内の観察が必要です。生検(粘膜の微小片を採取し顕微鏡で観察)して確定診断をします。

治療

従来より、症状の進行したクローン病患者さんの栄養管理の目的で経腸成分栄養療法が行なわれてきましたが、栄養状態の改善のみならず、腹痛や下痢などのクローン病の症状の改善も得られることが判ってきました。クローン病では腸管の安静に加えて腸管腔からの抗原を取り除くことが治療のカギとなり、これを目的とした栄養療法には経腸栄養法と完全中心静脈栄養とに大別されます。
高度な狭窄がある、広範囲な小腸病変が存在する、また成分栄養法を行なえない患者さんなどでは完全中心静脈栄養が行なわれます。
経腸成分栄養療法に使われる栄養剤としてはたんぱく質と脂肪をほとんど含まない成分栄養剤、少量のたんぱく質と脂肪含量がやや多い消化態栄養剤、カゼイン、大豆タンパクなどを含む半消化態栄養剤があります。特に成分栄養剤は抗原性を持たないアミノ酸をたんぱく源とするため、消化をほとんど必要とせず、また脂肪分をほとんど含んでいないため、腸管の安静を保ちながら十分な高エネルギー、高たんぱく源の栄養補給を可能としています。さらに腸管内細菌叢を是正することも治療効果の一つと考えられています。

< 薬物療法 >
● 5-ASA製剤

腸管の中で局所的に働き、炎症を抑えます。
従来から使用されてきたサラゾスルファピリジン(略号:SASP 商品名:サラゾピリン)と最近発売されたメサラジン(商品名:ペンタサ)があります。SASPは腸内に到達する前に大半が吸収されてしまいましたが、ペンタサは腸で徐々に有効成分を出すように製剤設計されており、効果が期待されています。

【副作用】
アレルギー症状、発疹、消化器症状、頭痛などがあります。このほか肝障害や溶血性貧血、白血球減少があります。
また男性の場合精子の減少や運動能の低下から男性不妊の原因に成ることもあります。妊娠に対する投与については通常の投与量では催奇形性は無いとされていますが、薬が母乳から移行することから出産後は十分に専門医に相談することが必要です。

● 副腎皮質ステロイド

強力な炎症抑制作用を有します。内服薬のほか坐薬、注腸(肛門から注入する薬)、静脈内注射を程度に応じて使います。

【副作用】
体重の増加、顔の浮腫み、にきび、不眠、糖尿病の悪化、骨がもろくなる、感染症にかかり易くなるなどがあります。

● 免疫抑制剤

免疫の異常な働きを抑えます。ステロイドで緩解をみない患者さんや副作用が強い患者さんに免疫抑制剤の少量投与を行なうことでステロイドの減量や中止ができるようになりました。

< 食事療法 >

クローン病の食事療法の原則は低脂肪・低残渣食・十分なカロリーです。

< 手術療法 >

以下のケースのときに外科的手術の適応になります。

緊急手術が必要な場合
  • 大量出血の場合
  • 中毒性巨大結腸症(大腸が腫れあがり、毒素が全身に回ってしまったもの)
  • 穿孔(大腸が炎症部より穴が開いてしまった状態)
  • 癌化またはその疑い
患者さんの生活向上を考慮して手術が行なわれる場合
  • 薬物療法などの内科的治療に反応しない重症例
  • 膿瘍、外瘻、内瘻ができている場合
  • 難治性の狭窄
  • 痔ろうなどの肛門部周囲病変
< 行政による社会保障制度 >

潰瘍性大腸炎と診断されたら、国や自治体から特定疾患医療給付制度があり、医療費補助が受けられます。手続きは下記の通りです。

  1. 住民票登録をしている区域の保健所で特定疾患専用の診断書と申請書をもらいます。
  2. 診断した担当医師に診断書を記入してもらいます。
  3. 申請書には本人または保護者が記入します。
  4. 書類審査が終了すると約1~2ヶ月で受給者証が交付されます。
  5. 医療費補助の開始時期は各都道府県で異なります。申請書を受理した日とするところと、受理した月の初めから免除を受けられるところとがあります。
  6. 受給者証の有効期限は1年間です。更新は満了2ヶ月前までに手続きが必要です。

腸結核

病態

結核菌感染によって起こる腸管の潰瘍性、肥厚性病変です。40~70歳に多く見られます。汚染食物の摂取により初発感染として発生する場合と結核菌に汚染された痰の嚥下によって発生する場合があります。
感染を成立させる因子は嚥下される結核菌の量と宿主の栄養状態と考えられています。

症状

腹痛の頻度が最も高く(50%)、好発部位は回盲部であり右側腹部痛に限局される場合が多いです。下痢の頻度は低く20%程度であり、下血、発熱、腹部膨満、嘔気、体重減少、食欲不振は10%程度です。腸管の狭窄が増強すれば、腹痛の程度は増強し、嘔気、嘔吐を伴うようになります。

検査

ツベルクリン反応は90%以上で陽性化します。便培養で結核菌が検出されても排菌している部位が確定しない為、診断的価値は低いです。大腸内視鏡検査にて病変部の生検から結核菌培養率は70%以上であり診断に有用です。

治療

抗結核療法を行ないます。

腸管型ベーチェット病

病態

ベーチェット病(Behcet’s disease)とは、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。
本症は日本を最多発国とし、韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国によくみられます。発病年齢は、男女とも20-40歳に多く、30歳前半にピークを示します。病因は現在も不明ですが、何らかの理由で白血球の異常が生じて病態が形成されると考えられています。消化器病変(腸管潰瘍)を起こしたとき「腸管型ベーチェット病」といい、やはり男性に多くみられます。

症状

腹痛、下痢、下血などの臨床症状を示します。部位は回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れ、穿孔して緊急手術を必要とすることもあります。

検査

主症状がすべて出現したとき、診断はそれほど難しくありませんが、ときに、診断の困難なことがあります。病因も病態も不明な点の多いこの病気においては、未だに症状の種類によってのみ診断づけられています。大腸内視鏡検査にて腸炎の程度を確認します。

治療

原疾患の治療が必要ですが、腹痛、下痢、下血の症状が強い場合は他の腸炎と同様に禁食とし点滴で腸内の安静を図ります。腸管の狭窄症状(写真参照)が進行している場合は、腸管切除も必要です。

細くなってしまったところ

宿便性腸炎

病態

高度の便秘が腸内に貯留することにより、腸の動き(蠕動)が亢進したり、多量の宿便が直腸の壁を圧迫したりして、深い潰瘍をつくることがあります。

症状

しぶり腹を呈し、潰瘍を形成すると排便後、かなり激しく下血します。

検査

大腸の緊急内視鏡にて診断します。

治療

多くの場合は安静にて治癒するのですが稀に腸が裂けて腹膜炎となり緊急手術になることもあります。

S状結腸軸捻転症

病態

S状結腸は腸間膜(腸を覆っている膜)が長く、可動性に富む為に、時に腸間膜がよじれS状結腸の血行不全が起き複雑性(絞扼性)イレウスを来たします。常習性の便秘の人やS状結腸の過長症の人に起きます。

症状

複雑性(絞扼性)イレウスに準じます。突然の腹痛、腹部膨満で発症します。

検査

腹部レントゲンにて拡張したS状結腸で診断がつきます。

治療

大腸内視鏡挿入にてねじれをとりガスを出せば改善することがありますが、改善しない場合や症状が重篤な場合(腸管壊死が考えられるとき)は緊急開腹手術が必要です。

過敏性腸症候群

病態

普段から「胃腸が弱い」と感じ慢性の下痢が、食事と無関係に起きます。特に会社や学校に行く日の朝食後にお腹の調子が悪くなったり、トイレにすぐ行けない状態の時に下痢を起こします。腸に形態的な異常がないにもかかわらず、腸が正常に機能しない疾患です。

症状

下痢や軟便が1日に2~3回以上も起り、1回の排便量は少なく、便意が強く、便をしたい気持ちは強い(おなかがしぶる)のに十分排便がでなく、残便感や不快感が残ります。休日や体がリラックスしている時には、症状は現れないのが特徴です。また、腹痛、腹部不快感、吐き気、嘔吐、げっぷ、おなかがゴロゴロ鳴る、食欲不振などの症状を伴うことがあります。腸の内容物を運搬するぜん動運動が低下し、またS状結腸(左下腹部)の異常な収縮運動がおきると症状がでます。腹痛の部位や程度はは人によって様々ですが、左下腹部にでることが多いです。「お腹の具合がずっとよくならない」「検査をしてもどこにも異常がないのに下痢や便秘などの症状が続いている」などの症状があります。

● 下痢型

慢性の下痢が1日何回も起ります。1回の排便量は少なく、便意が強いにも関わらず十分排便できないため、残便感があります。便に粘液が混ざることはあ りますが、血便はなく、また下痢による体重の減少は見られません。

● 便秘型

腹痛があって便意をもようしてトイレに行っても便が出にくく、出てもコロコロとした便しかでません。

● 交代型

数日間泥状便、水様便、粘液の混じった便などが続き、その後は、便秘やコロコロとした便、細い鉛筆状の便が出るなどの症状をくり返します。ガスがたまる、吐き気、嘔吐のほか、疲労感、頭痛、発汗、動悸などの自律神経失調の症状、不安感や抑うつ感などの精神症状を伴うこともあります。

● 原因

緊張や不安、ストレスなど現代社会における心身のバランスが崩れているために起きます。胃や腸にはきめ細かい神経が非常に多く分布しています。そして、胃腸と脳は自律神経によりつながっているため、脳が不安や精神的圧迫などのストレスを受けると自律神経を介してストレスが胃や腸に伝達され胃腸の運動異常を引き起こし、腹痛や便通異常が発生するのです。

検査

まず、消化器系の検査(大腸内視鏡検査)を受け、器質的病変(腫瘍、潰瘍、炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎など)がないことを確認しなければいけません。年齢が若くても起きる疾患は多いのでまず、これらを除外しなくてはいけません。

治療

生活環境や行動の変化などが、便通異常や腹痛などに影響があるか否かを分析します。リラックスした生活を目指すため、日常生活の見直しも必要です。軽い運動、スポーツや趣味を活かしたストレスの発散、十分な休息・睡眠をとることが大切です。

  1. 下痢・便秘の緩和:下痢止め、(下剤、整腸薬など)
  2. 消化管の運動機能を改善:抗コリン剤、粘膜麻酔薬、腸管運動調整剤など。
  3. 抑うつ感が強い場合:抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整剤など。

食事:アルコールやカフェイン、暴飲暴食、香辛料の強いもの、 冷たいもの不規則な食事は避けることが望ましいです。

大腸アメーバ腸炎

病態

アメーバ原虫による大腸炎です。戦前は「赤痢」の原因として最も多く、大腸炎を呈した後、経肛門的に肝臓に感染し、肝膿瘍の原因にもなります。戦後、日本ではほとんど見られなくなりましたが、海外にて感染し帰国後、日本で発症するケースも珍しくありません。

症状

症状は「慢性的に持続する腹部不快感と粘液便」です。しかし、放置すると肝膿瘍を呈し死にいたることもあります。

検査

大腸内視鏡検査にて診断します。肝膿瘍が疑われる場合は肝臓の超音波検査やCT検査が必要になります。

治療

アメーバを退治する内服薬(メトロニダゾール)の投与が必要です。肝膿瘍を呈している場合は超音波にて膿瘍に針を刺し、吸引する必要があります。

海外から帰ってから腸の具合が悪い方は要注意!

大腸憩室症(憩室炎)

病態

大腸憩室は大腸の壁が腸管内の圧力に負けて、腸管外にポケット状に突出したものです。

症状

一般に無症状ですが、憩室内に糞便が貯まり、炎症を起こすと、憩室炎といい腹痛や発熱を呈するようになります。憩室炎をなんども繰り返していると、腸管は硬くなり、融通の利かない腸になり、便がスムーズに腸管内を移動できなくなり、便秘、下痢、腹部膨満、違和感の原因になります。また憩室が深くなり腸管を栄養している血管を損傷すると、そこから出血し下血を呈します。

検査

消化管造影(バリウム検査)や大腸内視鏡で病変の存在を確認できます。

治療

憩室炎では腸内安静の為、禁食とし、補液と抗生剤にて炎症を鎮めます。
炎症が落ち着かず、腸に穴が開き腹膜炎を呈した場合や炎症や出血をたびたび繰り返す症例は手術にて腸切除をする場合があります。
憩室出血は大腸内視鏡にて出血部位を確認できれば、クリップにて憩室を閉じ、止血を図ります。まず全身状態の回復に努めますが、出血が多い場合は輸血を余儀なくされる場合もあります。

大腸ポリープ

病態

大部分は「腺腫」と言われる大腸がんの前癌病変です。

分類

  • L腺腫性ポリープ
    孤立性ポリープで通常20mmを越えるものは癌化しやすい
  • 非腺腫性ポリープ
    過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、脂肪腫

症状

多くは無症状です。大きくなってくると便潜血検査で陽性率が高まります。

検査

多くの施設では、消化管造影(バリウム検査)で病変の存在を確認しますが、下記の表のように、結局ポリープが疑われる際には確定診断には大腸内視鏡を行い、切除し組織検査をする為、はじめから大腸内視鏡を施行するのが、常識になりつつあります。

治療

ポリープは直径5mmを越すと、腺腫であることが多く、ガン化の危険を秘めているため、治療をするのが一般的です。直径が2cm以下であれば、内視鏡で取ることができます(内視鏡的ポリープ切除術)が、それ以上のものは、外科手術の適応になります。

内視鏡で取れた場合にも、その断端(切り口)にポリープの細胞がある場合には取りきれていないと考えられるので、追加切除として手術が必要な場合もあります。

大腸検査の特長と欠点

検査項目特長欠点
血液検査 簡単、医師の技術を要しない。早期発見には役に立たない。
遺伝子診断 ガンの本質にせまる検査。 まだ実験段階。
便潜血検査 簡単、医師の技術を要しない。 早期発見には役に立たない。
痔でも陽性になる。
バリウム検査現在では補助的な意義しかありません。 医師の技術で正確さ、苦痛が大きく異なる。
下剤の準備が必要。見落としがある。
内視鏡検査 ガンを確実に診断できる。
同時にポリープ切除もできる。
医師の技術で正確さ、苦痛が大きく異なる。
下剤の準備が必要。

家族性大腸ポリポーシス

病態

若年時より腺腫性ポリープが多発し、放置すれば大腸癌が必発します。

症状

多くは無症状ですが、血便にて発症することがあります。

検査

消化管造影(バリウム検査)で無数のポリープ像が認められますが、「大腸ポリープ」の項参照のようにはじめから大腸内視鏡を施行するのが、常識になりつつあります。

治療

手術にて全結腸切除術を施行します。

蛋白漏出性胃腸炎

病態

消化管粘膜より管腔内にタンパク(おもみアルブミン)が漏出する為に、低タンパク血症を伴う病気です。

原因

  1. 粘膜からのタンパク漏出の亢進
    巨大肥厚性胃炎(メネトリエ病)、アミロイドーシス、膠原病
  2. 潰瘍、炎症
    腸炎,癌など
  3. 消化管のうっ血、リンパ流のうっ血
    肝硬変,収縮性心膜炎

症状

浮腫が主症状です。進行すると胸水や腹水も併発します。アルブミンの減少からカルシウムの体外漏出が進み、低カルシウム血症(テタニ-)を呈する。食欲が無くなり、嘔気、下痢、腹痛も伴うことがある。

検査

糞便中の蛋白漏出測定が行なわれる。

治療

一般に低タンパク血症に対しては十分なエネルギー投与と高タンパク食が原則になります。脂肪の摂取は腸に負担をかけ病態を悪化させる為、脂肪制限が必要です。浮腫に対する対症療法(利尿剤投与、アルブミン製剤投与)を行ないつつ、原因疾患の治療を行ないます。

消化吸収不良症候群

病態

腸管からの栄養素の消化吸収が障害され、全身の栄養低下を来たした状態。

分類

1) 原発性

スプルー症候群→原因不明の脂肪吸収障害を呈する。

2) 続発性
吸収部位の減少胃切除/小腸切除
小腸粘膜障害Wipple 病/アミロイドーシス/SLE/強皮症 悪性リンパ腫
腸管運動亢進カルチノイド症候群/甲状腺機能亢進症
腸管運動低下甲状腺機能低下症
酵素活性化障害Zollinger-Ellison 症候群
膵外分泌障害慢性膵炎/膵臓がん
胆汁酸障肝硬変/胆管閉塞/腸内細菌増殖
タンパク漏出うっ血性心不全 収縮性心膜炎/リンパ管/拡張症

症状

原因疾患の症候と各種栄養素の吸収障害の症状を呈します。

検査

消化吸収試験

治療

基礎疾患の治療と高カロリー輸液で栄養状態の改善・安定を図ります。

腸閉塞

病態

「イレウス」とも呼ばれ、なんらかの原因により、腸管の通過が障害された状態です。

分類

機械的イレウスと機能的イレウスに分類されます。
機械的イレウスは腸管の閉塞を来たしているイレウスで、血行不全を呈していない「単純性イレウス」*1と、血行不全を呈している「複雑性イレウス」*2に分類されます。
機能的イレウスは腸管が運動麻痺を呈した「麻痺性イレウス」*3と、腸管が痙攣性に収縮した「痙攣性イレウス」*4に分類されます。

*1 単純性イレウス
腸管の閉塞を来たす疾患として大腸癌、腸炎、術後や外傷による腸管の癒着が多くあげられます。

*2 複雑性イレウス
腸管の閉塞を来たす腸閉塞のうち、その部位を養っている血管の血行不全があり、そのままではその領域の腸管が壊死してしまいます。原因に腸重積、ソケイヘルニアかんとん、腸軸捻転症、Meckel憩室などがあげられます。

*3 麻痺性イレウス
腸管に器質的な疾患はなく、腸管壁の神経、筋が影響を受けて腸管運動が麻痺した状態です。原因として化膿性腹膜炎や癌性腹膜炎、子宮外妊娠、外傷などによる腹腔内出血、胆嚢炎、膵炎などの炎症疾患があげられます。

*4 痙攣性イレウス
腸管に器質的な疾患はなく、腸管の一部が痙攣を起こしたものです。ヒステリーや神経衰弱による神経性やモルヒネ、ニコチンなどの中毒性のものもあります。

症状

単純性イレウス

緩徐に始まる周期的な腹痛や嘔吐、排便や排ガスの停止、腹部膨満感を呈します。症状が進行すると脱水症状も出てきます。

複雑性イレウス

単純性イレウスに比べて全身状態が重篤です。急激な嘔吐と腹痛が持続的にあります。

麻痺性イレウス

緩徐に始まる周期的な腹痛や嘔吐、排便や排ガスの停止、腹部膨満感を呈します。原因の疾患の痛みを伴うこともあります。

痙攣性イレウス

緩徐に始まる周期的な腹痛や嘔吐、排便や排ガスの停止、腹部膨満感を呈します。

検査

単純性イレウス

腸閉塞自体は腹部レントゲン写真で診断がつきますが、原因追求の為には大腸検査(注腸や内視鏡)が必要になります。

複雑性イレウス

腸閉塞自体は腹部レントゲン写真で診断がつきますが、原因追求の為に開腹手術に踏み切る場合があります。

麻痺性イレウス

腸管運動で、腸蠕動・腸雑音の消失が確認されます。

治療

単純性イレウス

癒着性のものの場合は約9割が禁食により保存的に改善します。改善しない場合はイレウス管という管を鼻の穴から狭くなっている腸管まで挿入し減圧を図ります。それでもだめな場合や食事を開始するとまたぶり返す症例は外科的に原因の癒着をはがす手術をします。また原因が大腸癌である場合は、イレウス管にて一度減圧した後に、外科手術にて大腸切除を行なったり、一時的に人工肛門を作成し、二期的に大腸癌の手術を施行する場合もあります。

複雑性イレウス

絞扼(血管が締められているところ)の解除が優先され、緊急手術になります。腸管の壊死部は切除が必要です。

麻痺性イレウス

原因疾患の治療が原則です。腸管運動を促進させる薬を使用することもあります。

痙攣性イレウス

原因疾患の治療が原則です。内科的治療が基本です。

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